医学部/医学科/耳鼻咽喉科・頭頸部外科学  藤枝 重治教授


所属:医学部/医学科/感覚運動医学講座/耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学

職名:教授

専門分野:鼻科学・頭頸部腫瘍

暮らしの質を守る治療について

 2010年11月、来年春はスギ花粉の飛散量が前年を大きく上回る予想が発表され、恐れている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?今回は、スギ花粉症の新しい治療法を研究している医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の教授、藤枝重治先生にお話を伺いました。

研究について

 鼻科学と頭頸部のがんを専門に研究しています。
 頭頸部のがんについては、診断後、手術から放射線治療、抗がん剤治療という流れがあります。手術でがんを取り除いたとしてもがん細胞が残っていて、血液にのって広がったり、再発したりします。どうすればそのがんが良く死ぬか、どうして大きくなっていくのか、転移していくのか、どういうものを見つけていけば治療につながるのかということを考えています。主にアレルギー性鼻炎、アレルギーについて研究しています。

 アレルギー性鼻炎を起こす原因は花粉によるもので、一般に言う「花粉症」です。それに加えて家のホコリ、ダニによって起こるアレルギー、この二つが大きな原因です。アレルギーがどうして起こっているのか、違いはあるのか、治療はどうするかということを研究していますが、明確な目的は新しい治療法の開発です。

スギの花粉。山から採取するそうです。
スギの花粉。山から採取するそうです。

 まずは、患者さんに採血をお願いして、分析を行い、どういう遺伝子を持っている人がアレルギー性鼻炎になりやすいか、ならないのか調べました。現在2200ほどのサンプルを解析した結果、スギ花粉症を発症している人は40%以上、アレルギー要素を持っているが未発症の方も含めるとプラス20%います。そこに家のホコリ、ダニなどのアレルギーの方がかぶってきますので、まったくアレルギーのない方というのは25~30%です。今までは、アレルギー性鼻炎になったのはどうしてかということを研究していましたが、現在は、アレルギー性鼻炎になっていない人はどうしてならないのかということを研究する方向に変わってきています。また、アレルギー要素は持っているが、発症していない方が20%いるので、そういう人を増やすにはどうすればいいのか、予防できる薬や食品、生活習慣などを見つけていくという方向に向かっています。でも根本は、どうして発症しないのかです。スギ花粉症を発症する遺伝子については、発症を左右する遺伝子が抜けているという場合と遺伝子が入れ替わっている遺伝子多型という場合があり、現在全遺伝子について調査しています。

より治療を受けやすくするために

 もう一つ、現在は、アレルギー性鼻炎の症状を軽減する抗ヒスタミン薬による治療が一般的ですが、患者さんを満足させられていません。根治的な治療法の確立に向けて研究を重ねています。スギ花粉などアレルギーを起こす抗原をごく少量ずつ体に摂取していくと、体が徐々に抗原に慣れてくれるという免疫療法が根治性があるといわれています。従来は、注射で入れていたのですが、副作用があり、痛みがあるので患者さんがいやになってしまって病院に来なくなり、やがてやめてしまうという方が多くいました。それで口の中に入れて「なめる」舌下免疫療法を臨床研究で行っています。

 現在保険適用はありませんが、患者さんの協力のもと今年で7年目に入っています。ある程度の期間継続してやっていますので、どのくらいの期間継続するとどの程度効果があるのか、やった人にどのような変化があるのか、5年間舌下免疫療法をやってやめると効果はどれだけ持続するのかなど少しずつわかってきています。今は効果的な使い方を模索しています。

 また、舌下免疫療法で即効果が出る方のすべてのたんぱく質の変化を自作の測定器で測定した結果、『アポA4』というたんぱく質の値が上がることがわかりました。このたんぱく質を人工的に作って、試験管の中で実験してみると、ヒスタミンを出さなくなり、免疫療法の効果が出るのです。舌下免疫療法が効果的な人はこの「アポA4」が誘導されやすいということです。この結果は新しい治療や診断のためのマーカーになりうるということで特許を出願するにいたりました。発表した論文は雑誌へも掲載されました。

免疫療法に使用する花粉エキス
免疫療法に使用する花粉エキス

舌下免疫療法。注射に比べて痛くないので治療が長続きします。
舌下免疫療法。注射に比べて痛くないので治療が長続きします。

 診断についても糖尿病には血糖値という指標がありますが、アレルギー性鼻炎にはありません。医師が診察をして「くしゃみが出ますか?」とか「目がかゆいですか?」「症状はどうですか?」など質問をして、「花粉症ですね。」とか「よくなっていますね。」という風に主観的に診断しているのが現状です。何か指標の出る検査をして、「あなたは重症です。」とか「薬が効いていますね。」というような重症度が計れるようにしたいと考えています。今注目しているのは一酸化窒素(NO)です。ぜんそくなどでは、よく使われてきた指標ですが、のどよりも鼻のほうが反応が大きく出ることがわかって、検査データの意義としては高いと思われるので現在計測しています。計測に際しても息を吐くだけなので、患者さんの負担も軽いです。研究で薬を飲んでいただいている場合にも検査させてもらっています。NOを調べると「あなたの鼻の中のアレルギー状態がわかります。」となることが目標です。今後もアレルギーによって誘導されるたんぱく質や遺伝子の発現を一度に大量に測ることで発見し、それを治療に活かしていきたいと思っています。

生活の質を維持する

 頭頸部のがんについては、「舌がん」「上顎がん」「喉頭がん」「咽頭がん」「甲状腺がん」「耳下腺(だ液せん)がん」を扱っています。表に出ている部分が多いので、目に見えたり、顔がはれたりして発見しやすいものが多いですが、できる場所によっては発見も手術も難しいものもあります。手術も行うので、外科的要素も強い分野です。また、がんができることで、顔が変形したり、声が出なくなったり、また食事ができなくなるなど、命に関わらなくても、生活の本質にかかわることが多いのが特徴です。がんは治っても、食べられない、声が出ないでは生きる意欲も半減してしまいます。ここでは機能を残して治療するということが大きなテーマになっています。

 アレルギーについても、体全体が重篤にならないためにアレルギー物質の入り口である鼻やのどで戦って症状を出し、アレルギー物質を排除しようとしているので悪い反応ではないのですが、現在「抗ヒスタミン薬」による症状を緩和する治療が主流で、効果に差があり、患者さんが満足できるものではありません。命にかかわるものではなくても、生活の質の低下を招きます。あるいは風邪をひいたとき「においがわからない」「味がしない」ということを体験したことがある方もいると思いますが、これも放置すると回復しない場合があるので軽視しないことが重要です。

 今後は、人々が暮らしを楽しむ機能を失わないようにしていきたいと考えています。具体的には、聴覚、味覚、嗅覚など病気や老化によって衰えたり、失われたりする機能を補助するための研究をしたいと思っています。老化を遅くする、もしくは人工的に代用するものを作りたいと。これには工学部の先生との協力も必要かと思っていますが、なかなか取り掛かれないのが現状です。でもぜひ一緒にやりたいと思っています。

【先生が耳鼻科を選んだ理由をお聞きしたところ、】

 笑って「雰囲気だね。」と答えられました。どんな雰囲気なのでしょうか。「偶然というか、その時の縁ですね。」と言いながら、以前に耳鼻科を選んだ理由と題して書かれたエッセーを見せていただきました。それには、教授との出会いがきっかけであったこと、手術があること、すでに結婚されるご予定があり、夜勤が少なかったことも理由に挙げられていました。なんだかちょっと先生が身近に感じられた瞬間でした。やはり人との出会いが人生を左右するものなのですね。医学は、人の命にかかわる重要なものです。研究室の雰囲気やチームワークがよくないと研究もスムーズにいかないものだと思います。現在は、教授として若い先生が耳鼻科を選んでもらえるよう勧誘もしているとのこと。きっと先生のお人柄に触れた学生は、耳鼻科を選ぶのではないかと感じました。